怒り (上)(下) / 吉田修一
Posted by yammieya on
映画化された「悪人」を彷彿とさせるタイプの、クライムストーリー…と言っていいのかどうかわからないが、ただただ読んだ後は静かな哀しみが残った作品です。
実際のあの事件かな? 的な世間を騒がした事件をモチーフにして、その後3つの場面を切り取りながら描く独自の展開で、本当の犯人は誰なのか、ものすごく気になって帯のキャッチコピーではないけれど、最後までページをめくる手が止まりませんでした。
吉田さんの作品を読んでいていつも思うことは、
「どうして幸せはこの手をすり抜けてしまうのか」
とか、
「犯罪者も被害者も、ただ自分が幸せになることを初めは願っていたはず。ならどこで歯車が狂ってしまったのか」
とか、
「実は普通に生きることが一番難しい」
などの、普段の自分の人生でわかっていたけれども、それを認識するのがあまりにも苦くて普段は見ないふりをしていた事が、浮かび上がってきてしまうなぁと。
このどうしようもない人生の苦味というか、やりきれなさを描くのが本当に上手い作家だと思います。
ただ、やりきれなさで終わるのではなく、ほんのわずか遠くからかすかに(よく注意しないとわからないほど)、おぼろげな光が見えているところも、上手いな、と思ってしまう要因の一つです。
この光的なほんのわずかな希望めいたものは、よくよく注意して目を凝らさないとわからない、という描き方をされているのも、他の作品との共通点かもしれません。
今回の作品は「過去を語らない人物をどこまで信用できるか」というところに鍵を置いて三様に描かれています。
(刑事の北見を含むと4パターンになりますね)
「信じる」ということは、大事なこと。
自分の中の疑心と闘いながら、それでも片目をつぶって相手の過去をさぐらない、ということが、幸福の鍵になったり、不幸の種になってしまったりするのは、一体どうした神の裁量なのかと考え込まされました。
べったりと物語の舞台に大書された「怒り」の文字。結局犯人が何に対して怒りを感じていたのかわかりにくい、という意見のレビューもあったのですが、ワタシ個人としては、このあたりははっきりと書かれていなくてもいいかなぁという気持ちです。
犯人自身も、親、世間、自分を取り巻く環境、おそらくは自分自身、どれに深く怒りを感じているかははっきりと自覚せずに書いたのではないかなぁと感じました。
すごく大雑把な言い方をすれば、自分以外の、この世界すべてに怒りを感じていたのかもしれません。それが理屈に通った怒りなのか、理不尽な怒りなのかは別として。
「怒り」というこの作品のタイトルですが、もしかしたらその犯行現場のキーワードとして使われた以外にも、「信頼してもらえなかった」者達、「信じてあげれなかった」者達の静かで苦い怒り、的な部分も含んでいるのかもしれませんね。
実際のあの事件かな? 的な世間を騒がした事件をモチーフにして、その後3つの場面を切り取りながら描く独自の展開で、本当の犯人は誰なのか、ものすごく気になって帯のキャッチコピーではないけれど、最後までページをめくる手が止まりませんでした。
吉田さんの作品を読んでいていつも思うことは、
「どうして幸せはこの手をすり抜けてしまうのか」
とか、
「犯罪者も被害者も、ただ自分が幸せになることを初めは願っていたはず。ならどこで歯車が狂ってしまったのか」
とか、
「実は普通に生きることが一番難しい」
などの、普段の自分の人生でわかっていたけれども、それを認識するのがあまりにも苦くて普段は見ないふりをしていた事が、浮かび上がってきてしまうなぁと。
このどうしようもない人生の苦味というか、やりきれなさを描くのが本当に上手い作家だと思います。
ただ、やりきれなさで終わるのではなく、ほんのわずか遠くからかすかに(よく注意しないとわからないほど)、おぼろげな光が見えているところも、上手いな、と思ってしまう要因の一つです。
この光的なほんのわずかな希望めいたものは、よくよく注意して目を凝らさないとわからない、という描き方をされているのも、他の作品との共通点かもしれません。
今回の作品は「過去を語らない人物をどこまで信用できるか」というところに鍵を置いて三様に描かれています。
(刑事の北見を含むと4パターンになりますね)
「信じる」ということは、大事なこと。
自分の中の疑心と闘いながら、それでも片目をつぶって相手の過去をさぐらない、ということが、幸福の鍵になったり、不幸の種になってしまったりするのは、一体どうした神の裁量なのかと考え込まされました。
べったりと物語の舞台に大書された「怒り」の文字。結局犯人が何に対して怒りを感じていたのかわかりにくい、という意見のレビューもあったのですが、ワタシ個人としては、このあたりははっきりと書かれていなくてもいいかなぁという気持ちです。
犯人自身も、親、世間、自分を取り巻く環境、おそらくは自分自身、どれに深く怒りを感じているかははっきりと自覚せずに書いたのではないかなぁと感じました。
すごく大雑把な言い方をすれば、自分以外の、この世界すべてに怒りを感じていたのかもしれません。それが理屈に通った怒りなのか、理不尽な怒りなのかは別として。
「怒り」というこの作品のタイトルですが、もしかしたらその犯行現場のキーワードとして使われた以外にも、「信頼してもらえなかった」者達、「信じてあげれなかった」者達の静かで苦い怒り、的な部分も含んでいるのかもしれませんね。